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地面師も顔負け、認知症の父の「身代わり」用意して自宅売却…増える高齢者の不動産トラブル
2025年01月18日 10時14分

「2021年以降、司法書士会に地面師詐欺の被害報告は寄せられていません」――。こう語るのはNetflixドラマ『地面師たち』を監修した司法書士の長田修和さん。実際に表舞台から姿を消したわけではなく、被害額が小さいなどの理由で表に出てこなくなっている可能性があるのだという。

しかし、不動産をめぐる詐欺はあとを絶たない。最近では親族が勝手に不動産を売ってしまうなど、高齢者をめぐる被害が深刻になっているそうだ。中には地面師ばりの手口もあるのだとか。

「2021年以降、司法書士会に地面師詐欺の被害報告は寄せられていません」――。こう語るのはNetflixドラマ『地面師たち』を監修した司法書士の長田修和さん。実際に表舞台から姿を消したわけではなく、被害額が小さいなどの理由で表に出てこなくなっている可能性があるのだという。

しかし、不動産をめぐる詐欺はあとを絶たない。最近では親族が勝手に不動産を売ってしまうなど、高齢者をめぐる被害が深刻になっているそうだ。中には地面師ばりの手口もあるのだとか。

●高齢者をカモにする悪徳業者

――高齢者が不動産トラブルに巻き込まれているそうですが…

たとえば、古いアパートの一室の所有権(共有持分)を10分割にして売りつけるなど、資産価値のない物件を高く売りつけたり、逆に自宅などを相場よりずっと低額で売却させられたりという話はよく聞きますね。

それから「原野商法」の二次被害。原野商法自体は40~50年ぐらい前の手口ですが、当時購入した人はもう高齢者です。価値がない土地だから子どもたちに相続させず、自分の代で処分してしまいたい。そこに付け込んで、「買いたい人がいる」と近づいてくる。

「向こうは400万円で買うと言っているんだけど、整地と測量費用で200万円かかるので、まずはそれを用意してください」とか言われて、お金を渡しちゃったら最後、相手は消えてしまう。

●「親族が地面師のようなことを…」

――実際にあやしい案件に出くわしたことはありますか?

依頼者が急いでいるケースは危ないことが多いです。たとえば、本来は1週間後の決済予定だったのに、ブローカーから朝電話がかかってきて「悪いんだけど、今日の昼までに来てくれないか」と言われたことがあります。

都合をつけて行ってみたら売主が3人いるはずなのに、2人しかいない。聞いてみると、急用ができて来れなくなったけど、親族だから実印など持ってきたって。おそらく本人がいないときを見計らって、急いで計画したんでしょう。不動産仲介業者が決済に来なかったことも怪しかったですし、本人の意思が確認できないので断りました。

司法書士は「人・物・意思」の確認が鉄則で、違反すると最悪の場合、資格を失います。だからあやしい案件は受けちゃダメなんです。

こんなこともありました。ブローカーから緊急に登記をしたいという連絡があって売主と電話で話してみると、親からもらった不動産を売りたいと言うんですね。親はそれで良いのかと聞いたら、認知症で口もきけないし、施設に入っているから会えないと。でも、実家に実印が置いてありますからって。どうも売主に借金があったようなのですが、贈与無効の可能性が高い。

これについては、ブローカーにその旨説明して親にも本人確認をしたいと言ったら、ブローカーから依頼を断られました。

――高齢者の多い社会では同様のケースが増えそうですね

最近、司法書士たちの間で気になった事例があります。高齢の親が自宅を売却したいというので、司法書士が自宅をたずねたんですね。お子さんもいて、本人確認も問題ないと判断したそうです。

ところが実はそのとき、自宅の所有者はそこにはおらず、介護老人ホームに入っていたんです。つまり、司法書士が会った相手はなりすましの別人で、子どもが地面師のようなことをしていたということです。

売却予定の自宅まで行って、お子さんがたぶん「お父さん」とか親と分かる呼び名で呼んでいるわけです。普通は、人・物・意思が揃っていると思いますよね。これで疑うのはかなり難しい。億単位の取引ならリスクも仕方ないでしょうけど、5000万円とか3000万円とかの物件でもざらにあるので気が抜けない。こういう親族のケースは最近本当に多くて、司法書士ってめちゃくちゃ怖い仕事でもあるんです。

結局、他の理由もあるとはいえ、本人確認をおこたったということで、この司法書士は業務停止の懲戒処分を受けました。官報に載るので、銀行などの手堅い案件は回ってこなくなるでしょう。

――どうして偽者だとわかったんですか?

他のお子さんが事件化し、懲戒請求がされました。おそらく、居合わせた子どもは家を売りたかったけど、他のお子さんは反対していたのでしょう。

裏返せば、もしひとりっ子だったら、誰もわからなかったと思います。でも、その場合、本人の意思は確認されないままです。

成年後見人がいれば、こうはならなかったでしょうが、お金がかかりますし、本人の意思に関係なく財産を処分したい親族にとっては不都合な存在です。

このケースは、実は、買主がこの自宅を購入して数年後に、売主の相続人と買主との登記抹消訴訟にまで発展し、買主が登記を失う判決(確定)となりました。

これは、普通の人がマイホームを買うときに起こりうるリスクを象徴しています。登記の怖さは、登記の直後だけではなく、忘れたころにやってくることもあるのです。ちなみに、法律のプロである弁護士(法律上は登記可)が登記に参入しない理由は、そのリスクを充分に知っているからですので、最近はやりの自分でする登記は、後が怖いですね。

登記とその本人確認は、司法書士でも見逃すことがあるぐらい難しいにもかかわらず、過失があれば重い賠償責任を負うのであり、司法書士の関与自体が「保険」のような側面があることもまた事実だと理解してもらえればと思います。

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