17439.jpg
「佐村河内」楽曲の著作権は誰のもの? 「ゴーストライターの著作権」を考える
2014年02月12日 10時50分

「現代のベートーベン」と絶賛されていた佐村河内守(さむらごうち・まもる)さんの曲を、実際には別人が作っていたことが判明し、大きな波紋を広げている。佐村河内さんは2月12日、代理人の弁護士を通じて直筆の謝罪文を公表し、「本当に多くの人たちを裏切り、傷つけてしまったことを、心から深くお詫びいたします」と謝った。

「ゴーストライターとして、18年間で20曲以上を提供した」と告白したのは、音楽大学で講師をつとめていた新垣隆さんだ。新垣さんは2月6日の記者会見で、提供曲の著作権について「放棄したい」と発言した。しかし、著作権を管理する日本音楽著作権協会(JASRAC)は、「権利の帰属が明確になるまで作品の利用許諾を保留する」と発表しており、権利関係がどうなるのかは不透明だ。

もしもゴーストライターの役割を担った人が、あとから「自分も著作者」だと名乗り出て、著作権を主張したとしたら、ゴーストライターにも著作権が認められるのだろうか。著作権にくわしい高木啓成弁護士に聞いた。

「現代のベートーベン」と絶賛されていた佐村河内守(さむらごうち・まもる)さんの曲を、実際には別人が作っていたことが判明し、大きな波紋を広げている。佐村河内さんは2月12日、代理人の弁護士を通じて直筆の謝罪文を公表し、「本当に多くの人たちを裏切り、傷つけてしまったことを、心から深くお詫びいたします」と謝った。

「ゴーストライターとして、18年間で20曲以上を提供した」と告白したのは、音楽大学で講師をつとめていた新垣隆さんだ。新垣さんは2月6日の記者会見で、提供曲の著作権について「放棄したい」と発言した。しかし、著作権を管理する日本音楽著作権協会(JASRAC)は、「権利の帰属が明確になるまで作品の利用許諾を保留する」と発表しており、権利関係がどうなるのかは不透明だ。

もしもゴーストライターの役割を担った人が、あとから「自分も著作者」だと名乗り出て、著作権を主張したとしたら、ゴーストライターにも著作権が認められるのだろうか。著作権にくわしい高木啓成弁護士に聞いた。

●二人の間には「ゴーストライティング契約」があった?

「これまで報道されている内容からすると、佐村河内氏と、そのゴーストライターだったとされる新垣氏との間で、次のような合意があったものと考えられます。

(1)新垣氏が作曲し、佐村河内氏に対して、その楽曲の著作権を譲渡すること

(2)佐村河内氏が新垣氏に対して、著作権譲渡の対価を支払うこと

(3)佐村河内氏の名義で楽曲を公表し、新垣氏は実際の著作者として有している著作者の人格権を行使しないこと」

高木弁護士はこう説明する。

「このような合意を、『ゴーストライティング契約』と呼びます。そして、このようなゴーストライティング契約のもと、長年にわたり、新垣氏が作曲した楽曲の著作権が、佐村河内氏に譲渡されていたと考えられます」

しかし、今回、大きな騒動になっていることからも分かるように、このようなゴーストライティングは、佐村河内さんの作曲だと信じた人たちをだます行為といえる。今回のようなゴーストライティング契約は、有効だといえるのだろうか。

「世間を欺くようなゴーストライティング契約は、公序良俗に反して無効である、という考え方が有力です。実際、このような考え方に沿った裁判例もあります」

●楽曲の「著作権」は佐村河内さんに帰属する?

では、今回のゴーストライティング契約が無効だとすると、新垣さんが佐村河内さんに「楽曲の著作権」を譲渡したことも無効となり、逆に、楽曲の著作権が新垣さんに帰属することになるのだろうか。

「この点についてはいろんな考え方がありうるところですが、私は、楽曲の著作権は、新垣氏ではなく、佐村河内氏に帰属していると考えています」

なぜ、そのようにいえるのか。

「ちょっと事案は異なりますが、たとえば、あるお金持ちの男性が、ある女性と愛人契約をして、愛人として付き合ってもらう代わりにマンションを買ってあげたとします。このような愛人契約は、公序良俗に反するとして法律上は無効とされます。

そうだとすると、その男性は『愛人契約は無効だから、マンションの譲渡も無効だ。だからマンションを返還してくれ』と、女性に請求できそうな気もしますが、法律上は請求できないことになっています。男性もまた、公序良俗に反する契約に加担しているからです。これを『クリーンハンズの原則』といいます。

その結果として、マンションの所有権は、その女性に帰属することになるのです」

●「クリーンハンズの原則」を適用すると・・・

高木弁護士は、今回のゴーストライティングの問題も同じように考えることができるのではないかと、と指摘する。

「つまり、仮にゴーストライティング契約が公序良俗に反して無効であったとしても、すでに佐村河内氏に譲渡されている楽曲の著作権に関しては、クリーンハンズの原則の結果、佐村河内氏に帰属することになる、というわけです」

実際、このような結論となった場合は、いままでと同じ権利処理をすればよい、ということになりそうだ。

「そうなった場合、JASRACは従前どおり、楽曲の著作権は佐村河内氏に帰属しているとして、楽曲の利用許諾を行うことができます。ですので、利用者も今までどおりの手続で楽曲を利用することができ、放送局もこれまでと同じように、楽曲を放送することができると考えられます」

ただし、クレジット表記については、「実際の著作者としての人格権をもつ新垣氏の名義になると思います」ということだ。

(弁護士ドットコムニュース)

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る