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「バレたら殺される」孤立出産に追い込まれる女性の苦悩、全国妊娠SOSネットワーク代表理事に聞く支援のかたち
2025年10月04日 17時17分
#孤立出産 #赤ちゃんポスト #境界性知能 #妊娠SOS

一般社団法人「全国妊娠SOSネットワーク」の代表理事で、医師の佐藤拓代(たくよ)さんは、小児科、産婦人科、保健所といった現場で、虐待に苦しむ子どもや望まない妊娠に悩む女性たちに向き合ってきた。

なぜ赤ちゃんの遺棄事件は後を絶たないのか。佐藤さんに「妊娠を知られたくない女性たち」の実像を聞いた。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)

一般社団法人「全国妊娠SOSネットワーク」の代表理事で、医師の佐藤拓代(たくよ)さんは、小児科、産婦人科、保健所といった現場で、虐待に苦しむ子どもや望まない妊娠に悩む女性たちに向き合ってきた。

なぜ赤ちゃんの遺棄事件は後を絶たないのか。佐藤さんに「妊娠を知られたくない女性たち」の実像を聞いた。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)

●出産後の「選択肢」を示す支援が必要

──熊本に続いて、東京や大阪でも「赤ちゃんポスト」の設置が広がっています。どのように見ていますか。

赤ちゃんポストの必要性を感じる人たちが、出産費用を負担して取り組んでいるので、一定の理解はできます。ただ、預けられる子どもにとってはどうなのか、という疑問もあります。

成長したとき、自分の親がどんな人だったのかを知りたいと思うはずです。事情があって育てられなくても、「あなたはとても大切な存在だった」と伝えられる関係であってほしい。

出産を「なかったこと」にせず、安心して産み、その後に複数の選択肢を持てる支援が必要だと思います。

画像タイトル 写真はイメージ(yuu / PIXTA)

●恐れるのは「家族に知られること」

──望まない妊娠、出産に直面する女性たちは、どのような状況にありますか。

多くは「親や夫(パートナー)に知られたくない」という恐怖を抱えています。

「親にバレたら殺される」と訴えてきた子もいました。親の扶養に入っている女性は、医療機関で保険証を出すことで、妊娠が露見するのを恐れています。

親が期待する「子ども像」を壊したくない一心で、妊娠を隠す高校生もいました。お腹が目立たず、周囲に気づかれないまま出産に至るケースです。

また、生活苦から性風俗で働くうちに妊娠する女性も少なくありません。

孤立出産に至る人は、そもそも「SOSを出せない人」です。おそらく、大切にされず育った経験を持ち、人を信じられないまま妊娠、出産に追い込まれるのだと思います。

知能指数が平均と知的障害の境界にある「境界性知能」の人もおり、母子健康手帳に書かれた細かい文字を正確に理解できない場合もあります。

画像タイトル 「日本には専門の相談員が圧倒的に足りていません」と話す佐藤拓代さん(2025年8月14日、大阪市で、弁護士ドットコムニュース撮影)

●妊娠期から寄り添う相談員が不足

──現場ではどのような支援をしていますか。

相談は匿名でよく、電話・メール等で受け付けています。

「一人で産みたい」と言う人には「あなたの産後の会陰部(えいんぶ)が心配」といった視点で寄り添います。「赤ちゃんのために」という言葉では心を開いてもらえません。

「妊娠したかもしれない」と打ち明けてくれるのは、信頼の証です。まずは「よく相談してくれましたね」と伝えます。

決して「医療機関を受診しなきゃダメですよ」と上から言うのではなく、本人の話に耳を傾けながら出産につなぐ支援をしています。

こうした対応には複数の職種が連携することが不可欠です。日本は相談員の数も専門性も圧倒的に不足しています。

ドイツでは人口4万人に1人の妊娠葛藤相談員を配置していますが、日本はほど遠い状況です。そこで私たちは相談員を育成する研修を実施しています。

画像タイトル 予期せぬ妊娠に直面する女性たちの実情や支援策について、佐藤さんらが執筆した冊子「妊娠を知られたくない女性たち」(弁護士ドットコムニュース撮影)

●役所窓口の「妊娠おめでとう」は押し付け

──社会の課題をどう見ていますか。

日本の性教育は弱すぎます。中学の指導要領では、妊娠のプロセスを扱わず、コンドームが出てくるのもエイズの感染症予防の観点からです。

しかし、コンドームの着用は男性主導の行為です。女性が主体的に選べるピルなどはほとんど触れません。

意思決定の場に、子育て経験のない男性が多いことも一因でしょう。フランスやドイツでは、より具体的な性教育がおこなわれています。

妊娠届の窓口も相談しにくい環境です。役所のパーテーション越しに性や妊娠の悩みを語れるでしょうか。

母子健康手帳を受け取るときに「妊娠おめでとうございます」と言われ、つらい思いを抱える人もいます。価値観の押し付けは避けるべきです。

画像タイトル 「全国妊娠SOSネットワーク」の代表理事で、医師の佐藤拓代さん(2025年8月14日、大阪市で、弁護士ドットコムニュース撮影)

●「おめでとうと言われる妊娠」だけが受け入れられる社会の偏見

──望まない妊娠、出産による悲劇を防ぐために、社会に必要なことは?

事件報道では、「悪いことをした女性」と描かれがちですが、彼女たちが追い込まれた背景こそ伝えるべきです。

社会には「おめでとうと言ってもらえる妊娠だけが受け入れられる」という偏見があります。

誰もが「命は大切」と思っているはずです。でも、「妊娠や出産の支援に国がお金を出すべきだ」という理解は広がっていません。

女性がお金を払わずに産める環境、子どもを望む人が安心して出産できる環境が整えば大きく変わります。出産費用の無償化は、その第一歩だと考えています。

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