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まるで「道具扱い」、買い叩かれるクラウドワーカー【フリーランスの光と影・2】
2017年02月12日 10時40分

会社に雇用されない「フリーランス」の働き方に注目が集まっている。クラウドソーシングによって参入障壁が低くなり、人脈やドブ板営業なしでも、気軽に踏み出せるようになった。しかし昨年には、DeNAによる悪質なキュレーション(情報まとめ)メディアの問題が大炎上し、安価なコンテンツを量産してきたクラウドワーカーの存在が明るみに出た。(ライター・タキガワマイコ)

会社に雇用されない「フリーランス」の働き方に注目が集まっている。クラウドソーシングによって参入障壁が低くなり、人脈やドブ板営業なしでも、気軽に踏み出せるようになった。しかし昨年には、DeNAによる悪質なキュレーション(情報まとめ)メディアの問題が大炎上し、安価なコンテンツを量産してきたクラウドワーカーの存在が明るみに出た。(ライター・タキガワマイコ)

●フリーランスの働き方は労働法の枠外

「この値段で受けちゃって、いいの?」

東京都内のIT企業に勤務する会社員の女性(37)は、仕事の依頼主と個人をマッチングするクラウドソーシング・サービスのサイトを開いてつぶやいた。自社サイトに載せるイメージイラストを発注しようと、イラストレーターを探していたのだが、そこでの提示価格があまりに低かったのだ。

雑誌で活動するイラストレーターへの依頼はイラスト1点1万円~が相場。ところが、そのサイトでは「1点500円より」という破格の申し出がずらりと並んでいたのだ。

結局、関西在住の30代主婦というイラストレーターと連絡をとり、1点1500円で10枚を依頼した。レスポンスも納品も早く、仕事は申し分なかった。「想定価格の10分の1程度。発注するのに罪悪感を覚えた」とIT企業会社員の女性は振り返る。

働く時間も場所も、仕事内容も「自由」になるフリーランス。その間口を広げたのが、個人と企業間の仕事の受発注の場をネット上に設けたクラウドソーシング・サービスだ。営業をしなくても、コネクションがなくても仕事をとれるのは画期的だが、「雇用関係」が生じないフリーランスの働き方は労働法の枠外。

つまり最低賃金も課せられなければ、法定労働時間もない。それでも稼げるならいい、という声はあるが、実態は甘くはない。

●道具扱いのクラウドワーカー

「月収20万円以上を稼いでいるクラウドワーカーは79.5万人中111人(当時)」。昨年2月に公開された、クラウドソーシング運営大手クラウドワークスの決算発表資料は、ネット上に衝撃を呼んだ。「働き方革命」を掲げる同社の登録会員で「食べていけている人」は0.014%に過ぎなかったのだ。

「会社員の副業や子育て中の主婦が収入を得るためというケースが多い」と、クラウドワークス側は説明している。クラウドソーシング・サービスをフリーランスの入り口に、ステップアップしてもらえばいいという考えだ。

北海道釧路市在住のフリーランスのライター兼編集者、古地優菜さん(32)もそうした1人だ。夫の転勤などをきっかけに、クラウドソーシング・サービスの利用からフリーランスの世界に入り、今では地元企業や複数ウェブメディアからの仕事で生計を立てている。

ただ、クラウドソーシング経由の仕事は「大半が安価で、最低賃金以下になりかねない仕事を精査する仕組みがない。働き手は時間当たりの単価が安くなっても気づかなかったり、気づいても脱却できなかったりという面がある」と指摘する。

雇用関係にないフリーランスは本来、発注者の指揮命令下にはない。しかし、立場の弱いフリーランサーの場合、発注者の言いなりに働くケースはままある。企業にしてみれば、労働法上で定められる責任は負わなくていいのに、その労働力だけ搾取できることになる。つまり、企業にとっての「都合のいい道具」になってしまう危険と背中合わせなのだ。

●DeNA問題が浮き彫りしたもの

この部分を浮き彫りしたのが、昨年末に大炎上したDeNA問題だ。

同社が運営するキュレーションメディア「WELQ」には、医療情報をうたいながら荒唐無稽な内容や、他サイトからの無断転用の疑いのある記事が乱発されていた。批判が高まるのを受けて、DeNAが昨年12月に開いた会見でDeNA側は「(9つの運営媒体の記事の)6~9割がクラウドワーカー経由のもの」と明言している。

同社が運営していたのは検索キーワードから上位に表示されることを最優先に、低コストでいい加減な記事が量産される仕組みだ。この仕組みに「新しい働き方」であるはずの、クラウドソーシングで集められた大量の外部ライターが組み込まれていたのだ。

クラウドソーシングを通じたDeNA側からの原稿料は、高くて1文字0.5円、ひどいものになるとさらに下回っていたことを複数の関係者が証言している。そもそもそんな価格で数千字の原稿をつくるのに十分な資料を当たったり、著作権使用を許可申請したりするような労力をかけられるわけがない。

1文字0.5円で2000字の記事を2時間かけて書けば、時給は500円。発注側とのやりとりや手直しが生じれば、さらに下がる。東京都の最低賃金は932円(2016年10月時点)。全国最安値の沖縄県、宮崎県の714円(同)をも遥かに下回ることになる。

●淘汰の時代は来るか

DeNA問題以降、企業のオウンドメディアのライティングなどを請け負う編集部では、いくつも「案件終了」になったという。東証1部上場で球団まで持つDeNAは集中砲火を浴びたが、フリーランスライターを買い叩き、質の悪い記事を量産する問題は、ネット上に散見される。今回の問題をきっかけに、DeNA運営のもの以外でも、いくつものウェブメディアで密かに写真や記事が姿を消した。

「安くフリーランサーを買い叩く風潮が劣悪な記事を量産した。今は淘汰の時代」とフリーランスライターを束ねるウェブ編集者はいう。DeNAは多額の損失が見込まれるとともに、そのブランドに大きな傷を自らつけることになった。

雇用関係にないのをいいことに、立場の弱いフリーランサーの労働力を搾取することは、結局は自らのクビを絞めることを同社は身をもって証明した。同時に顕在化したのが、クラウドソーシングの功罪だ。インターネットが切り開いたフリーランスワーカー量産の時代は、一つの曲がり角を迎えている。

(「会社勤めはイヤ」自由な働き方の裏側にある厳しい現実【フリーランスの光と影・1】はこちら→https://www.bengo4.com/c_5/c_1629/n_5696/ )

(弁護士ドットコムニュース)

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