この事例の依頼主
60代 男性
Aさんは、幼い頃母に死なれ、後妻さんが来ました。後妻に子が生まれ、4人家族となりましたが、父はなぜかAさんには厳しく当たり、それを見て後妻も、いわゆる継子いじめということが続きました。Aさんはおとなしい男性で、これに耐えて、アルバイトをして何とか大学まで行きました。大学卒業とともに家族3人とは別の人生となり、音信もなく、40年が過ぎました。ある日、遺言書検認ということで、家庭裁判所から呼び出されました。父が亡くなったのです。Aさんは、もう昔のつらい話しも忘れて、どこか懐かしい気持ちで家庭裁判所に行きました。ところが、見せられたのは、Aさんには一切相続させないという遺言でした。さすがに驚きましたし、ひどい話しだと思いました。でも遺留分で8分の1がもらえることを聞いて、少し安心していました。しかしこれでは済まなかったのです。少ししたら、遺言執行者という弁護士からAさんに「廃除請求」の裁判が起こされたのです。つまり、相続人でなくして遺留分までも奪い取るというのです。
1.Aさんから相談を受けて少々驚きました。廃除とはとても珍しく、弁護士を何十年もしている人でも廃除審判の経験は殆どないはずで、民法の教科書には載っていますが、私も初めて出会いました。家庭裁判所の廃除審判から代理人となって応訴し、廃除理由は父を侮辱したということなので、その事実がないことを詳細に立証して勝訴しました。2.継母の意を受けた遺言執行者の弁護士は、今度は、遺産は4000万円しかないから遺留分として500万円しか払わない、と言うのです。しかしこれは不動産を時価ではなく、評価額で計算して、故意に遺産を小さく計算していました。私はAさん代理人として調停を起こして、正しく約倍額に近い時価査定書を証拠として提出し、裁判所もこれを認めて、結局Aさんは遺留分として1000万円を受け取れました。もうひとつ、銀行の貸金庫の中に多額の預金が入った通帳が見つかりました。名義は継母の名前でしたので、当初は一切払わないと拒否されましたが、この金庫を開けられるのは亡父だけだったことを追及して、結局この預金分も何百万円か遺留分に加えることができました。
まずAさんから長時間をかけて生い立ちと継母との生活の詳細を聞き取りました。廃除審判はAさんの人格を傷つけるものですから、絶対にはね返さなくてはなりません。通常の訴訟と同じように丁寧に事実を調査して、それを分かり易い文章にして裁判官に正確に伝えることで全面勝訴できました。次に遺産の評価は、相手が出してきた証拠を鵜呑みにしないで、やはり紙背を見抜くつもりで丁寧に資料を分析することで勝機が生まれました。